第3回 出版の可能性
開講日: 2017年10月10日
講師: 岸上順一
3回目となる今回は、室蘭工業大学教授であり、World Wide Web Consortium (W3C) のAdvisory Boardを務める、岸上順一氏をお招きし、出版の持つ可能性について、主にインターネットの世界の視点から、講義が行われた。
岸上順一 氏
まず出版という言葉に含まれる項目について整理がされ、基本的な編集・校閲・製本・販売だけではなく、文化としての出版(アーカイブ)、本屋や図書館という場の持つ力、知識の共有という側面が紹介された。特に知識の共有については現在大きな変化が起きている項目として紹介がされ、従来の大量配布手段として用いられ、知識の共有として大きな力を持っていた本が、インターネットの登場により、速報性と拡散力で上回れてしまったこと、そして大衆にたいして画一的な情報を共有する時代から、各個人の興味に合わせて情報が共有される時代に変わったため、知識共有の手段として強みを失いつつあることが解説された。
次に現在のICT環境について触れ、、コンドラチェフの長周期論を用いて人類史におけるイノベーションの歴史と、それが起こったタイムスパンについて紹介がなされ、ICTの時代がすでに終わりに差し掛かっており、AI・IoT・VRといった新しいイノベーションの時代がすでに始まっているというものだ。AIによる変革は第2のデジタル革命であり、1度目の革命であった、機械がすでに読めるデータの蓄積・利用・応用から、機械が認識できなかったはずのノウハウや自然言語ベースの知識・データに対しても、機械が理解可能になる時代に差し掛かっていること、そして人間の仕事が次々と機械の仕事に置き換わっていく流れが解説された。その上で今後、人が行う、行う必要がある仕事は、創造性が必要で、論理的に定義しにくい、いわゆるクリエイティブの仕事に限定されていくのでは無いか、という問いがなされた。これは出版においては、製本はもとより、校閲や一部編集の業務はことごとく機械に置き換え可能で、執筆、特に文章のプロットを考える部分に集約されていくのでは、ということだった。
授業後半では、ここまでの3回の講義を踏まえ、グループごとに出版の未来はどのようなものなのか、議論がなされた。印象的な意見としては、すでに出版された本・雑誌に対して、自分の好きなページや文がピックアップされたものが拡散されていく、これがもはや二次的な出版なのではないかという意見で、現在著作権に守られている出版物が、更にオープン・イノベーションの波に飲まれていくのでは、という未来が語られた。またこれまで、本であれば視覚、ラジオであれば聴覚、に対してアプローチしていたメディアだったが、味覚に対してのアプローチも可能なのではないか、という考え方が発表され、例えば飲食店のレビューにおいて、現在はレビュアーが感じた感想を文にして紹介がされているが、味そのものを伝えることができれば、文章化によるフィルタリングを挟まずに味を伝えることができ、ユーザー体験を大きく向上させることができるのではないか、そしてこの視覚の次の感覚、味覚のパブリッシングができるとパブリッシングの未来が広がるのでは?という意見だった。