第6回 出版と日常生活
開講日: 2018年10月30日
講師:加藤文俊
第6回となる今回は、出版と日常生活と題し、加藤文俊環境情報学部教授より講義が行われた。
第4回に続いて、「社会的構成物としてのパブリケーション」がテーマ。
冒頭で紹介されたのは『The Burning House』。様々な人が「自宅で火災が起きた時に持ち出すもの」を写真に収めていった作品である。「ノートPCや写真、本など、広い意味でのパブリケーションといえるものが含まれている」(加藤教授)
『Every Thing We Touch』は24時間のうちにある人が触れたものを写真に収める大規模なプロジェクト。「PCのようなものが入っていると、必然的にそこが情報との接点とわかる。もしみんなが情報、コンテンツのつくり手の立場になったとき、誰の生活のどのようなタイミングにどういう情報を送り込みたいのか、という参考になる。」(加藤教授) 家、職場、など、人々は様々な「場」を移りながら生活している。コンテンツの入り口をどこに設定するのか考えることがクリエイター、デザイナー、もしくは編集者に求められている。
これと似たような手法に、「協力者に写真を撮ってもらう」というものがある。 加藤教授が紹介したのは、協力者とメディア機器がどのような関係にあるのか調査した写真。暮らしの中で、情報を表示する装置がどのように存在しているのかを知ることができる。私達はモノとともに生活しているが、生活の変化とともに、モノの配置が変わったり、廃棄したり、あるいは新しく調達することもある。これは本棚にも同じようにいえる。このような実態はアンケート調査などでは知ることが難しく、観察を行うしかないものであるといえる。
次に紹介されたのは『本棚の歴史』。たくさんの図版とともに、本の影に隠れて注目されない「本棚」に焦点を当てて紹介している。 モノとしての本の形の変化、そして複製、出版、流通の変化とともに本棚は変化してきた。もちろん、本棚の変化に伴い使用する人間の行動も変化してきた。つまり本の変化は本棚を変え、そして人間の読書行動、あるいは書籍と人との関わり方を変化させたことになる。
このように、人がモノのあり方を定義するだけではなく、モノが人のあり方を変化させる、という捉え方をすることができる。つまり、人とモノは相互に作用しながら変化を続けているといえる。