第8回 マンガのコマ思考
開講日: 2019年6月4日
講師:栗原良幸
第8回は、週刊モーニング、月刊アフタヌーン初代編集長の栗原良幸さんをゲストに迎えた。
栗原さんがモデルとなったマンガ2コマをスクリーンに映しながら講義が進められていく。冒頭、栗原さんはモーニング/アフタヌーンの16年間をふりかえり、編集長としては例外的に現場での打ち合わせを大量に行った。マンガの修正を求めた回数はおそらく日本のマンガ編集者の中で一番多いだろうと話した。そうした大量の修正を可能としたのは、日本のマンガの「コマ」の特性によるところが大きいという。
マンガは、コマの連続で描かれる表現物であり、その最大の価値は「1コマ先の自由」にあると言う。日本のマンガのコマは次のコマを目指して描かれている。1つのコマには次のコマへ向かうテンションが与えられ、読者の目が止まるコマには、濃密な時間を一瞬に凝縮した描写がなされている。スマホでマンガが読めるのも、コマ内が1つの時間に凝縮されていて、セリフと絵が同じ意味で「画文一致」しているためだ。
読者の生理的なリズムに任せて読めるのがマンガの特長であり、それはマンガだけでなく印刷出版物はすべて時間を止める表現技術として見直してみる価値があるとした。いまのところ人間には時間を止めた表現でないと摂取できないものがあると考えている。
『日本マンガの表現形式は世界共有のものになる』と思った栗原さんは、「コマにおいては絵も言葉である」という認識のもとに、絵の評価だけで多くの外国マンガ家に執筆依頼を行った。日本マンガのスタイルで描かれた外国マンガ家の作品は、後に母国で里帰り出版されていくつもの漫画賞や文芸賞を受賞している。「マンガは言語的な国境の壁を圧倒的に低くする」実感を得たと話す。「マンガはよく分からない領域や、確たる判断のできない世界を、コマを使ってひとつずつ、心を遊ばせながら歩を進める方法論」。それがずっと自分の編集の指針だったと笑顔で締めくくった